発明の背景
1. 発明の属する技術分野】本発明は、カルボキシメチルセルロース(以下CMCと略す)の水溶性塩を含有する安定なゲル組成物、特に医薬品、化粧品等の調製を含む多くの目的に有用なCMC含有均一で安定なゲル組成物と、その調製方法に関するものである。
合成高分子の均一なゲルの形成には、塩基性酢酸アルミニウムのような水にほとんど溶けないゲル化剤を用いる方法が知られている(特開昭54-106598号公報)。 しかし、この公知プロセスをCMCに適用すると、CMCはゲル化剤の表面でゲル化し、大きな塊状のゲルを形成し、系全体が不均一なものとなる場合が多い。 また、このような水にほとんど溶けない多価金属塩の種類は多くない。 また、ゲル化剤を混合する際の攪拌の勢いを強くすることも可能である。 しかし、攪拌を強くするためには、特別に強力な攪拌装置が必要である。 また、このような強力な攪拌によって得られる製品は、顕微鏡で見ると、固体の塊状の沈殿が細かい粒状に分かれて分散した、かなり不均一なものに過ぎないことが分かる。
我々は、CMCを均一にゲル化するプロセスを検討した結果、特別な強力な攪拌装置を用いることなく、CMCと種々の水溶性多価金属塩を反応させて、非常に均一で安定なCMCゲルを調製するプロセスを見出し、得られたCMCゲルは医薬品、化粧品などの製剤を含む多くの実用的用途に適用できることを確認しました。
多価金属塩によるCMCのゲル化は、要するにCMC分子のカルボキシル基と多価金属イオンのイオン結合による架橋反応であると考えられている。 CMCを水に溶解して調製した水溶液では、CMCのほぼ全ての分子が水に均一に分散・溶解しているため、CMCのカルボキシル基は、例えばナトリウムイオンの解離によって反応性の高い状態にある。 したがって、このようなCMC水溶液に、水に溶解した水溶性多価金属塩または粉末状の金属塩を添加すると、金属塩によるCMCのゲル化速度が金属塩の拡散速度よりはるかに大きいため、一部に固体塊状沈殿が形成され、得られるゲルは均一ではない。 また、CMCの水溶液を多価金属塩の水溶液に添加した場合も、同様の理由でゲル化は均一ではない。
一方、CMCと水溶性多価金属塩を親水性有機液体に添加した場合は、沈殿もゲル化も全く生じない。 これは、CMCが溶解せず、塩形成イオンに解離しないためである。 このような混合物に水を加えて初めて、CMCが溶解し、金属塩と反応してゲルが形成される。 しかし、この場合も、得られるゲルは均一ではありません。
そこで、CMCの水への溶解速度およびCMCと金属塩の反応速度よりも、CMCと金属塩の系への拡散速度を高くする必要があると判断し、CMCの溶解およびゲル化を遅延させる薬剤として有機液が利用できることを見出した。
すなわち、表面が親水性の有機液体で覆われたCMC粒子は、金属塩を含む水溶液に添加しても、速やかに溶解・ゲル化しないことが判明した。 この場合、まず有機液体の水による置換が起こり、その時間は数秒から数十秒である。 すると、水で覆われたCMC粒子は、その表面から水に分散・溶解し、CMCの分子が溶け出す。 こうして溶解したCMCの分子は、多価金属イオンと瞬時に反応し、ゲル化が起こる。 このように、多価金属塩水溶液に親水性有機液体で分散させたCMCを添加してからゲル化が起こるまで数十秒以上の時間があり、従って、特別強力な攪拌装置を使用しなくても、その時間、均一分散・混合を行い、均一で安定したゲルを得ることが可能となるのである。
本発明の要旨
本発明は、カルボキシメチルセルロースの水溶性塩を親水性有機液体で湿潤または分散させたものと、水溶性多価金属塩を含む水溶液とを含む安定なゲル組成物を提供するものである。 及び、水溶性多価金属塩を含む水溶液に、親水性有機液体で濡れた又は分散したカルボキシメチルセルロースの水溶性塩を添加し、均一なゲル組成物を得ることを特徴とする安定なゲル組成物の調製方法である。
本発明の安定なゲル組成物は、医薬品、化粧品等の調製を含む多くの用途に有用である。
DESCRIPTION OF THE PREFERRED EMBODIMENTS
次に、好ましい実施形態を参照しながら、本発明を詳細に説明する。
本発明の組成物は、種々の用途に適用できるため、各成分に特に制限はないが、水、水溶性多価金属塩、親水性有機液体、カルボキシメチルセルロース水溶性塩の4成分は、本発明の組成物に必須の成分である。 本発明の組成物には、これら4つの必須成分の他に、各組成物の使用に必要な成分、すなわち主成分及び/又は副成分を1種、2種又はそれ以上添加することができる。
本発明に用いられるカルボキシメチルセルロース(CMC)の水溶性塩としては、例えばカルボキシメチルセルロースナトリウム、カルボキシメチルセルロースカリウム、カルボキシメチルセルロースアンモニウム等を挙げることができる。 CMCは、水に溶解するものであれば、カルボキシメチル(DS)の置換度や粘度(重合度)は特に限定されることはない。 CMCは、置換度が0.3〜2.8の範囲にあり、粘度が10%水溶液で約500cps〜1%水溶液で約500cpsの範囲にあるものから、用途・目的に応じて選択することができる。 また、CMCの粒径も特に限定されない。 80メッシュのふるいを通過する微粉末や30〜80メッシュの粗粒など、市販されているものであればいずれも使用可能です。
本発明に用いられる水溶性多価金属塩としては、酢酸アルミニウム(可溶性、塩基性)、硫酸アルミニウム、カリミョウバン、塩化アルミニウム等のアルミニウム塩を挙げることができる。 塩化第一鉄、塩化第二鉄、硫酸第二鉄等の鉄塩、塩化第二銅、硫酸第二銅等の銅塩、その他無機又は有機のマグネシウム塩、バリウム塩、カルシウム塩、マンガン塩、カドミウム塩、クロム酸塩、チタン酸塩、アンチモン酸塩等である。 これらの水溶性多価金属塩は、得られる組成物の最終用途に応じて、いずれか1種または2種以上の混合物が選択され、使用される。 なお、組成物を医薬品として使用する場合には、無毒のものを選択することが望ましい。
本発明に用いられる親水性有機液体としては、グリセロール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、プロパンジオール、エチレングリコール、ポリエチレングリコール等の脂肪族ポリオールを挙げることができる。 メチルアルコール、エチルアルコール、プロピルアルコール、ブチルアルコール等の脂肪族アルコール、アセトン、メチルエチルケトン等の脂肪族ケトン、酢酸メチル、ギ酸エチル、プロピオン酸エチル等の脂肪族酸エステル等、水と相溶する有機液体が挙げられる。 これらの親水性有機液体は、いずれか1種または2種以上を混合して用いることができる。
本発明のゲル組成物における各成分の配合比は特に限定されず、個々の組成物の使用目的に応じて異なっていてもよい。 しかし、その比率は概ね以下の範囲内である。 水100重量部に対して、水溶性多価金属塩が0.01〜50重量部、カルボキシメチルセルロース(CMC)の水溶性塩が0.01〜50重量部からなり、親水性有機液体/CMCの重量比が0.2〜100の範囲内である。
水溶性多価金属塩の添加量が水100重量部に対して0.01重量部未満では、ゲル化の程度が不十分であり、50重量部を超えると、ゲル化の程度が不十分となる。 その上限は、水溶性多価金属塩の水への溶解度にもよるが、通常、50重量部程度である。 また、CMCの量が水100重量部に対して0.01重量部未満ではゲル化が不十分であり、50重量部を超えると均一なゲルが得られない。 親水性有機液体とCMCの重量比が0.2未満では得られるゲルが不均一になる傾向があり、100を超えると好ましい硬度を有するゲルが得られない。
本発明を適用する用途や対象の例としては、ステープ用基剤、カタプラ用基剤、外用鎮痛・消炎・鎮痙ゲル用基剤等の医薬品、芳香用基剤等、多岐に渡るものを挙げることができる。 化粧品ベースクリーム、スキンコンディショニングクリーム、バニシングクリーム、コールドクリーム、美容パック用ベース、練り歯磨き、シェービングクリーム、パーマネントウェーブ剤、マニキュア、練り粉、頬紅、染毛剤、アイライン、ヘアセットローション等の化粧品類。プリン、ゼリーなどの食品添加物、土木・油井掘削の泥流防止剤、電池用ゲル電解質、電線・ケーブル用コーティング剤など。 これらの各用途において、本発明によれば、非常に均一なゲルを形成することができる。
これらの対象に本発明のゲル組成物を実際に適用する場合、それぞれの対象に必要な主成分および/または副成分を組成物に添加する。 例えば、カタプラの場合、主成分としてカオリン粉末、補助成分としてホウ酸、サリチル酸メチル、ペパーミントオイル、チモールを用いることができ、親水性有機液体としてグリセロールを用いることが望ましい。 外用薬用ゲルの場合、鎮痛作用、消炎作用、鎮痙作用を有する医薬品を主成分とし、これに芳香剤等の副成分を加えてもよい。
美容パックの場合、亜鉛華、カオリン、流動パラフィン、ポリビニルアルコールなどを主成分とし、香料、防腐剤などを副成分として使用することができる。
以上、2〜3種の代表例を挙げたが、各所定用途の分野で公知の主成分およびその補助成分を適宜選択し、同分野で公知の割合で使用することができる。
以下、実施例により本発明を更に具体的に説明する。 ただし、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
実施例1
水(200g)にミョウバンカリウム(0.) g)をグリセロール(比重=1.252)(10g)で湿潤させ、ガラス棒で静かに攪拌しながら上記ミョウバンカリウム水溶液にカルボキシメチルセルロースナトリウム(DS=0.85、1%水溶液の粘性η=100cps)(2g)を添加し、さらにミョウバンカリウム水溶液を加えた。
部分的な固形塊は全く形成されず、系を放置している間に表1に示すように粘度は滑らかに上昇した。 また、溶液の状態で放置している間にゲル化が進行した。 一晩静置した後、形成されたゲルはシネレジスを示さず、やや弾力性のある均一なゲルであった。
ゲルの均一性を比較するために、別の調製物を上記と同じ条件で調製し、5分後、8メッシュのスクリーンで濾過を行った。 スクリーン上に残ったのは6gだけで、205gがスクリーンを通過した。 しかも、8メッシュのスクリーン上に残ったゲルは、固い塊状のものではなく、非常に均一に膨潤したものであった。
表1
調製0.25 1 2 3 20を放置した後の時間(hr)系の粘度320 660 2,300 2,950 13,500 (cps、25℃)
比較例1
カルボキシメチルセルロースナトリウム(DS=0.85、η=100cps)(2g)を水(190g)に溶解し、この溶液に実施例1と同様にして穏やかに攪拌しながら水(10g)に溶解したカリウムミョウバン(0.5g)を添加した。
添加直後は部分的に固形の塊状ゲルが多量に形成され、実質的に不均一なゲル系となった。 放置時間の経過とともに系の粘度は上昇したが、調製時に形成された塊状ゲルはそのまま残り、一晩経過しても系全体は島模様の不均一なゲルであった。
ゲルの均一性を比較するため、調製直後(5分後)に8メッシュのスクリーンでヤスリ掛けをした。 このように、得られたゲルは均一なものではなく、実施例1で得られたものとは全く異なるものであった。
EXAMPLES 2-4
実施例1の方法に準じて、他の種類のカルボキシメチルセルロースナトリウムを検討した。 各実施例で使用したカルボキシメチルセルロースナトリウムは以下の通りである。
CMC例 DS 1%水溶液の粘度
2 0.67 180 cps
3 1.35 150 cps
4 2.47 25 cps
また、これらのカルボキシメチルセルロースナトリウムの場合、次の表2に示すように、調製5分後に行ったろ過で8メッシュスクリーン上に残ったゲルの量はかなり少なく、すなわちかなり均一にゲル化されていることがわかる。
表2
実施例番号 2 3 4
ゲルの量 3 4 0.5
画面上(g)
実施例5
実施例1の方法に準じて、グリセロールの代わりに1,3-ブタンジオールを使用し、1,3-ブタンジオールを使用した。
この場合にも、実施例1と同様に調製直後に固形塊は形成されなかった。 粘度は表3に示すように滑らかに上昇し、形成されたゲルはシネレシスを示さない均一なものであった。
表3
調製後の時間 0.25 1 2 3 96放置(hr)系の粘度 1150 7930 12300 14900 18000(cps, 25° C.)
EXAMPLES 6-15
実施例5の方法に準じて、他の親水性有機液体について検討した。 使用した溶媒の種類とゲル化に伴う粘度の変化を表4に示す。 これらもすべて均一なゲル化が起こった。
表4
実施例親水性有機製剤を放置した各時間の粘度(cps)(hr) 使用液番号 0.25 1 2 3 24 96
6 1,4-ブタンジオール
790 4450
10100
11600
— 17000
7 エチレングリコール
830 5600
10140
11100
14960
-…-
8 polyethylene glycol #200
1160
5900
10300
10800
15100
–
9 ポリエチレングリコール#400
880 2700
7500
9500
15000
—
10 ポリエチレングリコール#600
980 6650
10200
11880
15000
–.
11 メチルアルコール
560 1330
1750
3550
13000
—
12 イソプロピルアルコール
630 2580
3540
5100
15000
—
13 アセトン 540 790
1380
2800
—
13 16000
14 メチルエチルケトン
600 870
2500
5500
— 15750
15 酢酸メチル
560 1160
3800
6800
14100
– のようなものである。-
EXAMPLE 16
実施例1の方法に準じて、実施例1と同様に行った。 ミョウバンカリウムの代わりに水溶性酢酸アルミニウムを使用。
調製後5分でろ過して8メッシュのスクリーンに残ったゲルはわずか7gで、固い塊ではなく、均一に膨潤したものであった。 ゲル化の進行に伴う系の粘度の変化を表5に示した。
表5
調製後の時間 0.25 1 2 3 96を立てたと感じた時間(hr)系の粘度 620 2450 10500 12400 18500(cps, 25° C.)
EXAMPLES 17-19
水(100g)に塩化銅(CuCl2・2H2 O)(0.5g)を溶解させた。 この塩化第二銅の水溶液に、グリセロール(10g)に分散させた粘度が互いに異なる以下の3種類のカルボキシメチルセルロースナトリウム(2.5g)のそれぞれを、穏やかに攪拌しながら添加し、水溶液とした。
この場合、部分的な固形物の塊は全く形成されず、均一なゲル化が起こった。 ゲル化の進行に伴う系の粘度の変化を表6に示す。
表6
カルボキシメチルセルロースナトリウム 粘度(cps) 例 1%水溶液調製後の粘度 No DS溶液 0.25 hr 48 hr
17 0.96 24 cps 730 9000
18 0.97 550 cps 950 31000
19 0.97 1830 cps 1890 35000
EXAMPLE 20
実施例18の方法に従い、塩化第二鉄(FeCl3・6H2 O)の代わりに塩化銅を使用した。
この場合も、固体塊が形成されず、均一なゲル化が起こることが確認された。
実施例21
水(119g)にカオリン(10g)とカリウムミョウバン(1g)を加え、混合した。 得られた懸濁液に、グリセロール(60g)に分散したカルボキシメチルセルロースナトリウム(DS=1.25、η=35cps)(10g)を緩やかに攪拌しながら添加した。
固形塊状ゲルは全く形成されず、非常に滑らかな表面と断面を持つ均一なゲルが形成された。 ゲル化の進行に伴う系の粘度の変化を表7に示す。
表7
0.25 1 2.5 5 7.5 24 96を放置した時間(hr) 系の粘度 21000 46000 72000 120000 195000 710000 1750000(cps, 25° C.)
0.25 1 2.5 5 7.5 24 96を放置するまでの時間。)
COMPARATIVE EXAMPLE 2
実施例21の手順を、同じ成分を同じ量で、しかし添加順序を変えて実施した。 すなわち、カルボキシメチルセルロースナトリウム(10g)を水(119g)に溶解し、得られた水溶液に、カオリン(10g)、グリセロール(60g)およびカリウムミョウバン(1g)の混合物を穏やかに撹拌しながら添加した。
調製直後から5〜10mmφの固体塊状ゲルが多量に形成され、不均一なゲル化が生じた。 ゲル化の進行に伴う粘度の変化を表8に示した。 このことからわかるように、見かけの粘度は実施例21のものに比べてかなり低く、得られたゲルは島状パターンを有する不均一なゲルであった。
表8
0.25 1 2.5 5 7.5 24 96を放置した時間(hr)系の粘度25000 24000 25000 26000 27000 47000 110000(cps、25℃)表8から明らかなように、実施例21と比較して見かけの粘度はかなり低く、得られたゲルは島模様を有する不均一なゲルであった。)
EXAMPLE 22
カルボキシメチルセルロースナトリウム(1g)をグリセロール(5g)に分散させ、その分散液をセチル硫酸ナトリウム(0.1g)及び水酸化カルシウム(0.5g)を含む水(84g)に撹拌しながら添加し、さらに撹拌を続けた。 さらに、ベンゾインチンキ(5g)、エチルアルコール(5g)、フェノール(0.05g)、香料(0.5g)を添加した。 均一なゼリーの化粧用乳液を得た。
実施例23
黒色染料(鉛含有)(1g)とクエン酸(1g)を水(65g)に溶解し、その溶液にイソプロピルアルコール(20g)に分散したカルボキシメチルセルロース(5g)とベンジルアチョホール(5g)を添加し、さらに水(65g)に分散させた。 べたつきのない良好な染毛剤が得られた。
実施例24
カルボキシメチルセルロースナトリウム(3g)及びポリビニルアルコール(7g)をグリセロール(10g)及びエチルアルコール(10g)に分散し、この分散液を撹拌しながら、ミョウバン(0.1g)及び香料(0.5g)を含む水(60g)中に添加した。 ガラス板上に塗布したところ、表面が滑らかな均一な塗膜を形成し、良好な美容パックが得られた。 また、乾燥後は容易に剥離することができた。
実施例25
水(3g)にリン酸カルシウム(2水和物)(45g)、ソルビトール(10g)、ラウリル硫酸ナトリウム(2g)、無水ケイ酸(2g)、水酸化アルミニウム(0.2g)、香料(1g)を加え、さらにグリセロール(10g)にカルボキシメチルセルロース(1g)分散させた混合物を添加し、混合した。 得られた生成物は、非常に滑らかで光沢のある表面および断面を有し、練り歯磨きとして良好な品質であった。
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